英語塾を運営して気づいたこと
英語塾を運営して満10年が経ちました。【個&子別指導】を行う中で、生徒さん一人ひとりに合わせて教材を選び、様々な出版社のテキストを使ってきました。その数、3000冊を超えます。もちろん素晴らしい教材も多くあり、お気に入りもあります。しかし、私たち日本人になぜ英語が必要なのか、子どもたちはどんな英語話者になるべきなのか、といった点を深く考えるにつれ、既存の教材の不足を感じずにはいられなくなりました。
特に読解問題集を扱うなかで、次のような3つの課題が浮き彫りになりました。
問題1:内容が偏っている!
英語の読解問題集は、幅広いジャンルを扱っています。文学や科学、社会問題、歴史文化など、多様なトピックを題材にしたものが多数出版されており、大学入試や英語資格試験向けのシリーズも豊富です。特に海外に関するテーマが中心で、SDGsやグローバルな社会課題が多く取り上げられています。
しかし、その一方で、「日本」に焦点を当てた英語読解問題集はほとんど見られません。日本の子どもたちが自分のルーツについて英語で学べる教材が圧倒的に少ないことに、疑問を感じます。歴史は社会の授業で、科学は理科の授業で学ぶものだ、という分野分けがなされているのかもしれませんが、若者が英語を使って将来話すべきなのは、自国の歴史や文化に基づく自分の考えやその根拠ではないでしょうか。
問題2:情報が古い!
例えばSDGsについて考えてみます。特に読解問題で多く扱われる、地球温暖化や再生可能エネルギーに関するトピックを例に挙げましょう。日本政府は「2030年にCO2を46%削減」「2050年カーボンゼロ」という目標を掲げています。しかしこれらを達成したところで、気温を低下させる効果はわずか0.006%に過ぎません。加えて、「地球が温暖化している」という主張については、近年、多くのデータや専門家により疑問が投げかけられています。世界的には、地球は温暖化していない、という認識が広がりつつあります。しかし、日本ではこの新しい常識が教育現場や一般的な情報に反映されていないのが現状です。
また、「シロクマが住む場所を失っている。シロクマを守ろう!」といったメッセージも多く見られますが、実際にはシロクマの個体数はここ数年増えています。一方で、日本の山々が切り崩されソーラーパネルが大量に設置されるせいで、野生のクマが駆除される事例が増えています。冬眠中の親子熊が命を奪われたり、居所を失ったクマたちが人里に降りて駆除される問題も深刻です。北極のシロクマを守ることも大切ですが、日本のクマも同じように大切に守らなければならないですよね!
新しいデータがあり、そこに事実があるにもかかわらず、日本の教育現場では情報がアップデートされず、時代遅れのメッセージやトピックが何年も使われ続けています。子どもたちは、同じ内容にくり返し触れるうちに、それを絶対的な真実だと自然に思い込んでしまいます。このようにして形成される固定観念は、本当の学びを阻害してしまうのではないでしょうか。この現状を見直し、情報を最新のものに更新していく必要性を感じています。
課題3:読解の意義が見えない
英語学習における読解力とは、「文章を正確に理解し、それを自分の考えや意見と結びつけて表現できる力」を指します。ただ設題に答えるだけの読解問題からは、本当の学びを得ることはできません。筆者の意図や背景を理解し、自分の言葉で要約したり、それを実生活や人生に活かす力が「読解力」なのです。
真の読解力とは:
・文章を正確に理解する力
・内容を自分の考えや意見と結びつけて表現する力
ただ設題の答えを探すような進み方をしていては学びが浅くなってつまりませんし、教材の可能性も生かしきれません。この点に関しても、私たちは今一度、「なぜ英語を学ぶのか?」という根本的な問いに立ち返るべきだと思います。
今こそ!英語を学ぶ理由を考えよう
「英語が必要だ」と言われる背景には、グローバル化やビジネスの国際化が挙げられます。世界がグローバル化したからといって、日本人全員が英語を話せる必要があるのかな?と、考えることがあります。今の時代、翻訳アプリやAIが進化し、言語の壁はほとんどなくなりました。そんな便利な時代になった今こそ、英語を学ぶ本当の意義を見つめ直すべきだと思います。
私も、子どもたちに英語を教えながら、ずっと自分に問うてきました。
「なぜ英語が必要なのか?」
成績のため、進学のため、就職・転職に有利、昇給しやすい、友達が増える、人生の選択肢が広がる、異文化を知れる、得られる情報量が増える、海外旅行が楽しめる、海外映画やドラマが理解できるようになる、ロジカルに考える力が身につく、未来のリーダーになるため ―― 人それぞれ目的はさまざまです。そして、どれもが素晴らしい理由です。
しかし、本当に将来に活かせる英語力とは何か。そして英語というスキルの本質的な役割は何か。突き詰めて考えると、一つの答えが浮かび上がります。
「日本人というバックボーンを基にして、英語を使い、世の中に価値を生み出すこと」
これが、英語を学ぶ本当の意義だと私は考えます。
グローバル化が進む中で、世界は狭くなり、人々の距離も縮まりました。ビジネスは国内から国外へと広がり、多くの恩恵を受けていることも事実です。しかしその一方で、過度なグローバル化が進むことで、私たち日本人のアイデンティティや、先祖代々受け継がれてきた「良き日本らしさ」が薄れてしまってはいないでしょうか。
英語を学ぶ理由は、外国人になるためでも、外国人に合わせるためでもありません。私たちは日本人としての価値観や文化を基盤としながら、自分たちのフィールドで世界と対等に渡り合うために英語を学ぶのです。どんなに高い英語力をもっていても、それが日本人としての土台を伴わないのあれば意味を成しません。この点が、日本の既存教育において大きく欠けている部分です。
背骨がない生き物は立てませんし、土台がない家は崩れてしまいます。それと同じように、自分のアイデンティティという「バックボーン」がない英語話者の言葉に、真の力は宿りません。英語を学ぶ本当の理由を見つめ直し、「日本人としての価値観」を基盤にした学びを築くことが、これからの時代には求められているのです。
人を創る読解問題集が作りたい!
「読めば読むほど自分が好きになる、自分の国に誇りが持てる、そんな読解問題集を作りたい!」
このような願いから、私は教材を作り始めました。強いられて読むのではなく、次はどんな話だろう?と、ワクワクしながら読み進められる問題集。設題に答えるという目的ではなく、全体を通して読んで面白く、人生の糧になる問題集。将来外国人たちと話すときに、臆することなく語り合える、誰にも引けをとらず、思う存分自分の主張ができるようになるための教材です。英語学習者の英語力に圧倒的に必要な中身をプラスできる、そんな本当に勉強する価値のある問題集が作りたい!そう思いました。
先日、【月刊マスターズ】という経済誌の取材で、このように質問されました。
「本を出版すればいいのに、なぜテキストなのですか?」
私はこう答えました。
「本だと、興味がある人が手にとって買わない限り読まれません。でも教材なら、学校や塾で採用されることで、生徒たちの目に必ず目に触れます。確実に読んでもらえるんです。」
だからこそ、教材という形でお届けしたいと思っています。
日本の素晴らしさを知る旅
今年は関東をはじめ、石川、滋賀、福井、京都など、様々な場所に取材に出かけました。地域の歴史に触れ、偉人の歩みをたどるのは、日本の素晴らしさを再発見する本当に素晴らしい機会となりました。地元の方々の話は、地域を大事にする想いと、先人への感謝にあふれており、胸が熱くなる瞬間が多々ありました。
例えば、米沢の上杉家の墓では、語り部さんのお話に感銘を受けました。上杉鷹山公がいかに現代にも通じるリーダーシップを持った政治家だったかを聞くことができました。その具体的なエピソードを伺い、改めて彼の偉大さを実感しました。そして、このような物語を地元だけに留めておくのはもったいない、もっと広めなければという使命感を新たにしました。
これらの旅で得た学びや感動を、これからの教材制作に存分に活かしていきたいと思います。そして、子どもたちが英語で自信をもって語れる力を育てるーーそれが私の目標です。
世界と対等に渡り合うとは
実際に外国人と話し合ったり仕事をすると、彼らの強いアイデンティティに圧倒されることがあります。故郷への思い、家族への愛、未来に向かう強い意思には並々ならぬものを感じます。こうした姿勢は、話す言葉にも大きな説得力を与えます。英語を使って仕事をしていくとは、そのような人々と対等に渡り合うことを意味しているのです。
自分自身や自分の国へ想いが薄い若者の言葉にはパワーがありません。ですから、ディスカッションで価値を認められることは難しいでしょう。日本の若者たちも彼らと同じように、自分のルーツに誇りを持ち、その誇りをバックボーンとして英語で語れる力を育んでほしいと思うのです。というより、そのようなバックボーンがあるからこそ、自分の言葉を語る意味と英語を使う必要性が生まれるのです。
世界と対等に渡り合うためには、単なる英語力だけでは不十分です。英語力以上に「語るべき中身」が必要です。私は、その中身を育むための教材を世に出したいと強く願っています。