子どもの脳とスマホの使用

2024/01/03

子どもに与えている?それとも、奪っている?

いつの頃からか。一部の中高生の、レッスン中の様子がとても気にかかるようになりました。スマートフォンを片時も手放せないのです。

これまでは、英単語を調べるために辞書アプリを使う時とリサーチワークをする時にのみ、レッスン中のスマホの使用を許可してきました。わたし自身、文明の利器をフル活用することは悪いことではない、時短だし良いのではないか?と、考えていました。

しかし、しばらく観察した結果、スマホに頼った学習をして、成果が出ているようには到底思えないのです。むしろ、彼らの態度、学力、集中力、記憶定着力を総合的に判断すると、良くない方向へ向かっていると言わざるを得ません。

スマホの使用が、子どもたちに悪影響を与えているのではないか?ただの個人の感想としてではなく、根拠に基づいた洞察をするために色々と調べたところ、不安は確信に変わりました。


ある脳神経科医が行った、2023年12月の大阪府吹田市議会での一般質問は、私にとって大変腑に落ちるものでした。彼は、大人の脳と成長中の子どもの脳を同じものとして語ってはならない。危険性を大人が認識するべきだと訴えました。

子どもたちの脳は、大人の脳の小型版・ミニチュア版ではありません子どもたちの学習能力、社会での適応能力に大きく影響を与える前頭前野の発達がピークを迎える時期は、乳幼児期はもとより、学童期、思春期、そして20代前半の若者まで続きます」

令和4年11月に開かれた「就学前の子どもたちの育ちに関わる基本的な指針に関する有識者懇談会」では、京都大学の明和政子教授をはじめ多くの有識者が、人が生存するための根幹となるアタッチメント、社会的絆の重要性について述べました。乳幼児期から大人の脳へと成長していく過程で、他者との身体的接触を含む経験を通して関係を築き、前頭前野の発達が良好に行われることによって、実行機能、他者理解、他者を思いやりふるまう高社会的行動能力形成が育まれます。

「社会のIT化は大人にとっては便利かもしれないが、子どもたちから身体的接触を奪うのは確実。社会的絆、前頭前野の発達を阻害し、子どもたちや若者たちに悪影響を与える側面があることを大人が学び、把握した上で対策を講じるべき」

gijiroku.pdf (cas.go.jp)
「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会|内閣官房ホームページ (cas.go.jp)


東北大学の川島龍太教授は、「子どものスマートフォン使用と脳への影響」について、重要な研究を行っています。川島教授は、このような点を指摘しています。

  1. 5歳から18歳の児童・生徒224人を対象に3年間、MRIで脳の発達を調査した結果、毎日スマホを使う子どもは脳の発達が止まっていることがわかった
    スマホ中毒になると「小6の脳」で成長が止まってしまう…東北大の3年間の追跡調査が示す恐ろしい事実 特定のアプリが成績に著しい悪影響を与えている | PRESIDENT Online
  2. 家で2時間以上勉強しても、スマートフォンを3時間以上触っていると、その学習効果が無駄になってしまうと指摘している。スマホを使えば使うほど学力が破壊される可能性を示唆している
    “スマホが学力を破壊する”これだけの根拠 3時間触ると2時間の勉強がムダに | PRESIDENT Online
  3. 長時間スマホを使用する子どもは、脳の発達が阻害されるとの調査結果がある。スマホの使用時間が長くなるほど、成績が下がっていくことを示している
    脳トレ・川島隆太教授がデータで解説 スマホ使いすぎると「成長期の脳が発達しない」(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース

研究結果は、
①オンラインでのコミュニケーションは、たとえ画面で顔を見ていても、対面の会話のように脳は活動せず、心と心がつながるコミュニケーションにならないこと
②スマホなどのデジタル機器をたくさん使っていた子どもたちは学力が低く、脳の発達にも悪影響が見られた。だから、これらに留意して教育環境の整備を行う必要があること
を、エビデンスに基づいて的確に示しています。


確かに、スマホを使えば単語は一瞬で調べることができます。でも、消えるのも同じくらい一瞬です。数分後に復習の質問をしても答えられない場合が多いです。大切な点をメモする習慣もない子が多いのは、すぐにスマホで調べられるからでしょうか?

先ほど書いた通り、わたしも、以前は英単語をスマホで調べるくらいはOKだと考えていました。でも、スマホが近くにあれば、どうしても触りたくなる。SNSやゲームの通知が気になって仕方がなくなる。しまいには、レッスン中に堂々と、LINEに返信をしたり、Tik Tokにアップしたり、オンラインゲームをする子まで出始めました。

スマホを触る衝動を抑えられない、だんだんと歯止めが効かなくなる理由は、「スマホ脳」ースウェーデン出身の精神科医アンデシュ・ハンセン著ーという書籍によると、「スマホはドーパミン量を増やす。スマホは、我々の脳の報酬システムの基礎的なメカニズムにダイレクトにハッキングする」からだそうです。

つまり、勉強中にスマホを近くに置くこと自体よくないんだなと気づき、これまでの考えを改めました。


私も含めて、大人たちは真剣に考えなければなりません。子どもたちに与えているようで、実は奪っているものはないでしょうか?
大事な大事な子どもに、たくさん与えたい、あれもこれもしてあげたいという気もちはよく分かります。でも、「与える」よりも「奪わない」ことの方が本当は重要だった、ということはないでしょうか?

Dr.ハンセンは、「スマホ脳」の中で、「私たちの心や脳を便利さと引き換えにする」と、表現しています。便利さを与えられて、心や脳を奪われるとは・・・皮肉なものですね。

「加賀てくてくの杜」教育アドバイザーで保育士の川口正人さんのお話を思い出します。川口さんは6人のお子さんを育て上げたお父さんです。

「初めての娘が歩き始めたころに、転ばないようにと与えた歩行器が、ハイハイの時期を短くして必要な筋肉と体幹をきたえる時間を奪った」

「奪うのは、本当にかんたんです。
顔へのファーストタッチ、何でも口にいれることには大事な意味があるのに、汚いからダメよ。
幼稚園で「はい、トイレ行きましょー」と誘導するから、自分からトイレに行けなくなる。男の子に座りトイレをさせることも。
少し高い台に上がるのに、載せてもらっていた子と、自分で登った子では全然違う。
大人は子どもから、何一つ奪ってはいけない」

加賀プロジェクト視察・セミナーにて

私たち一人ひとりは、自分から正しい情報を収集して分析し、自分の頭で考えて決定しなければなりません。自分が何をして何をしないか、自分の大好きな子どもに何をさせて何をさせないか。最終的にそれを決めるのは、あなたです。そしてこれが、英語を学ぶ真の意味にもつながります。なぜなら、真の情報に近づくには、英語(英文)理解が必須だからです。


スティーブ・ジョブズが自身の子どもたちのスマホやタブレットの使用を厳しく制限していた、というのは有名な話です。時代に強烈なインパクトを与えた、iPhoneやiPadの開発者本人が、自分の子どもには使わせなかったのです。彼が「スティーブ・ジョブズ」ー2011年発行・伝記ーで語った言葉は、多くの親や教育者に影響を与えました。

「iPadは(子どもたちの)そばに置くことすらしない」
「子どもたちは過度にテクノロジーに依存することなく、創造性や人間関係を育むための時間をもつべきだ」

伝記 スティーブ・ジョブズ (ポプラ社ノンフィクション) |
「ジョブズ」が我が子のスマホ利用を禁じた理由 | デイリー新潮

このような態度を我が子に示しているIT企業トップは彼に限りません。Microsoft創設者のビル・ゲイツは、「自分の子どもには、14歳になるまで携帯端末をもたせなかった」と、インタビューで語っています。ぜひ、上↑のデイリー新潮の記事をお読みください。


「子どもたちとスマートフォン:年齢より成熟度が重要」

ジェリー・ブブリック博士(チャイルド・マインド・インスティテュートの不安障害センターのシニアディレクター兼強迫性障害サービスのディレクター)は、CBSNに出演し、子どもたちのスマートフォンとソーシャルメディアの影響について議論した。「子どもにスマートフォンを持たせるときには年齢だけでなく、その子どもの成熟度や責任感を考慮する必要がある」と述べ、スマホ使用が子どもの発達にどのような影響を与えるかについての懸念を扱っている。

「元アップルデザイナー、子どもたちが画面に釘付けになる世界を作ったことを後悔」

元アップルのデザイナー、トニー・ファデルは、自らが開発に関わったiPhoneなどのデバイスによって子どもたちがスクリーン依存になっていることを後悔している。彼はロンドンのデザインミュージアムでの講演で、この現状について「冷や汗をびっしょりかいて目を覚ますんだ。僕たちはいったい何を創ってしまったんだろうって。」と述べた。自身の子どもたちも、デバイスから離れるときに激しく感情的な反応を示すと経験を語り、テクノロジーが家族内の絆を損ねていることを認めている。


電車やレストランで、スワイプしながらスクリーンに見入っている赤ちゃん。公園にスマホを持ち寄って、オンラインゲームをしている小学生たち。特にティーンエイジャーのお子さんには、今更[スマホ禁止]だなんて言えないと思われるかもしれません。周りの圧力もありますし、第一親の方も、今は何をするにもスマホに依存しているのです。しかし、大人の脳と子どもの脳は根本的に違うという点を忘れてはなりません。大人にとっては安全または無害であることも、発達途中の子どもにとっては有害となる恐れがあります。

二人の娘さんを育てている友人は、このように話していました。

「上の娘にスマホをもたせた時に、無計画に下の娘にもスマホを与えてしまったこと。あれを本当に後悔しています。それ以来、〇〇ちゃん(下の娘さん)は学校から帰るなりずっとあの四角の(スマホの)世界に入り込んで。何かが変わってしまった」


塾としては、今年からレッスン中のスマホ使用を全面禁止にすることにしました。何かを禁止にするのは初めてです。でも、それくらい真剣に子どもたちの将来を危惧しています。全レベルに対応する紙の辞書を用意して、教室内では紙の辞書で単語を調べることに決めました。慣れれば早く引けるし、目にも優しい。前後の単語や例文も読めますし、自分の辞書であれば付箋を貼ったり線も引けますし、労力をかける分記憶にも残りやすく、良いことばかりです!

また、来年度から始める新・小学生クラスのテーマとして、「奪わない教育」を掲げました。教育(教え育む)とは本来どういうことなのか、子どもたちにとって最善の益となる学習は何か。塾を始めてから10年の歴史の中で成功した点も反省点も、すべてを活かしたレッスン作りをして参ります。

♯スマホと子ども
♯テクノロジーの進歩と教育とのバランス
♯子どもの発達段階と脳の成長
♯選択の自由と伴う責任

今回取り上げた事例や研究結果が、子どもたちに何をどのように学ばせるかについて、大人たちが深く考える機会になればと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。今後も、子どもの成長に役立つ話題を取り上げていきます。

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